男性間の性交渉とHIV感染リスク:理由と予防方法

監修:医師 高山貴行

内科。東京都立墨東病院や東京医科歯科大学医学部附属病院を経て、2021年より羽田空港検査クリニックの主任医師として、空港内の検疫業務を始め、渡航医療、感染症対策等に携わる。


性交渉によるHIVの感染

HIVはエイズを発症させるウイルスであり、性交渉を通じて感染する可能性があります。特に、男性同士の性交渉はHIV感染リスクが高いとされており、そのリスクをどのように管理し、減少させることができるのか。今回の記事ではHIVの感染リスクと予防方法について説明し、また性病以外のリスクについても簡単に紹介させていただきます。

なぜ男性同士の性交渉でHIVの感染リスクが高いのでしょうか

2019年の国連の調査によると、一般的な成人男性と比べ、男性と性行為を行う男性のHIV感染リスクは26倍も高いと言われています(出典:HIVとゲイ男性など男性とセックスをする男性)。また、一部地域ではHIV新規感染者のうち、およそ64%が男性と性行為を行う男性だったと報告されています。

1. 肛門性交のリスク

 肛門性交は、男性同士の性交渉において一般的な行為ですが、HIV感染のリスクを特に高める要因となります。肛門の粘膜は、比較的薄く、脆弱であるため、性交渉中に小さなキズが生じやすく、HIVの感染経路になってしまいます。特に、激しい性行為や十分な潤滑ローションがない場合、裂傷のリスクはさらに高まり、これらの裂傷からHIVウイルスが血流に入り込むことで感染します。

2. コンドームの使用率

肛門性交におけるコンドームの使用は、HIV感染予防において極めて効果的な手段です。しかし、避妊の目的がないため、特に男性同士の性行為ではコンドームの使用が軽視されがちです。実際に、コンドームを使用しないことが多いという報告があり、このことが感染リスクの増加に直結していると考えられています。コンドームは、粘膜間の直接的な接触を遮断し、HIVをはじめとする性感染症から保護する役割を果たします。したがって、すべての性行為でコンドームの使用を徹底することが、感染リスクを大幅に減らすキーポイントとなります。

性病以外のリスク:社会的な側面と差別問題

同性間の性交が法律で禁止されている国も多く、このような差別がHIV感染の問題をさらに深刻化させています。差別により、HIV感染の疑いがあっても医療機関を受診することを躊躇する人が多く、感染の早期発見や治療が遅れることがあります。HIVは早期に発見・診断できれば、抗ウイルス薬(ART)により進行を遅らせる事ができたり、また、暴露後も発症前にPEPを服用する事で予防できたりします。幸いなことに日本では男性間性交渉に対する差別は少ないと思いますので、リスクがあると感じた場合には感染症クリニックで相談してみてください。

まとめ

肛門性交におけるHIV感染リスクは、肛門の粘膜の脆弱性、コンドームの使用率の低さによって特に高まります。リスクがある場合は、一度検査を受けて自身の感染状況を確認する事が大切です。HIVは恐ろしい病気ではありますが、予防(PrEPやPEP)から治療(ART)まで対処法はありますので、過度に怖がらず適切に対応して性交渉時のコミュニケーションを大切にしましょう。