ワクチンでがんを予防する〜HPV ワクチンと子宮頸がん〜

監修:医師 高山貴行

内科。東京都立墨東病院や東京医科歯科大学医学部附属病院を経て、2021年より羽田空港検査クリニックの主任医師として、空港内の検疫業務を始め、渡航医療、感染症対策等に携わる。


HPVとは

皆さんは「HPV ワクチン」という言葉をご存知でしょうか。

最近、テレビや SNS で目にすることがあると思います。

HPV ワクチンは新型コロナウイルスワクチンと同様に特定の感染症を予防することを目的としています。

その感染症がHPV というウイルスで正式名称は「Human papillomavirus」 で日本語では「ヒトパピローマウイルス」と呼ばれています。

最近になってこのHPV が話題に上がるようになった背景には新型コロナウイルスワクチンの影響があります。HPV も新型コロナウイルスと同様に人から人へと感染します。

新型コロナウイルスとの大きな違いはその感染様式がくしゃみや咳といった飛沫ではなく、性行為によるものであるということ、そしてHPV の持続的な感染によって癌を発症するリスクがあるということです。

HPV は性行為を経験した女性のうち50%が生涯で一度は感染していると言われています。

感染した方の中にはHPV が自然消滅することもあり、この場合は癌のリスクにさらされることはありません。

HPVワクチン

HPV というウイルスにはいくつか種類があり、種類によって癌を発症させやすいもの(高リスク型:16, 18, 31, 33,45, 52, 58 など)と発症させにくいもの(低リスク型:6,11 など)があります。

HPV 感染を防ぐにはワクチンが有効ですが、現在日本で定期接種が推奨されているのはサーバリックス、ガーダシル、シルガード9の3種類で、それぞれ予防できるHPV の種類数が異なります。

予防できる種類が多いほど子宮頸がんの予防効果も高くなります。

また、HPV の持続感染は子宮頸がんだけでなく中咽頭がん(喉のがん)や肛門がん、陰茎がんの原因となることがわかっています。

つまり、HPV ワクチンによるがん予防効果は女性だけでなく男性にもあるということです。

現在、日本では男子に対する定期接種は行われておらず、接種を受ける場合は原則自己負担となっています。今後は男性に対する公費でのHPV 接種に関して議論が進んでいく予定です。

HPVワクチンの「キャッチアップ接種」

HPV ワクチンは2006 年に欧米で生まれ、2009 年に日本でも接種が始まりました。

しかし、HPV ワクチンを接種した方の中に重篤な症状をきたす例がありました。

当時の過剰な報道により国民の間で不安が広がったこともあり、政府はHPV ワクチン接種後の多様な症状に対する情報提供が不十分であることを理由に2013 年からHPV ワクチンの接種の積極的な推奨は差し控えました。

そんな中、新型コロナウイルスの流行によりワクチン接種やそれに伴う副反応がより身近な話題となり、一人一人がワクチン接種のメリットとデメリットを考えるようになったことをきっかけに2021 年に「積極推奨の差し控え」が解除されました。

2013 年から2021 年の期間でHPV ワクチンの定期接種を逃した女性に対しては公費でHPV ワクチンの接種を受けることができる「キャッチアップ接種」が提供されています。

HPVワクチンのリスクと予防接種健康被害救済制度

予防接種を受けた方の中には非常に稀ですが、健康被害(下表)を生じることがあります。症状が重度の場合は法律に基づく救済(医療費・障害年金の給付)が受けられます。

今回ご紹介したHPV に関する詳しい情報は厚生労働省のホームページに記載されていますので、気になった方は是非ご覧になって見てください。