潜伏期間という恐ろしい落とし穴

監修:医師 高山貴行

内科。東京都立墨東病院や東京医科歯科大学医学部附属病院を経て、2021年より羽田空港検査クリニックの主任医師として、空港内の検疫業務を始め、渡航医療、感染症対策等に携わる。


潜伏期間という恐ろしい落とし穴

そもそも潜伏期間って何?

みなさんは、潜伏期間というものをご存じでしょうか?

聞いたことはあるな、という方が多いと思いますし、意味もなんとなくわかっている方が多いでしょう。

潜伏期間とは、特定の病原体(病気の原因となる菌や微生物など)に感染してから、症状が出るまでの期間のことをいいます。

病原体はいきなりたくさん体に侵入するわけではなく、少しの量が体内で増殖して、体に悪影響を及ぼすのです。

潜伏期間とは、ざっくり言うと、その増殖にかかる期間のことです。

あの病気の潜伏期間ってどのくらいなの?

それでは、有名な性感染症の潜伏期間を具体的に見てみましょう。

 簡単にまとめると、以下のようになっています。

感染症名潜伏期間
カンジダ1日〜7日程度
淋病2日〜7日程度
性器ヘルペス2日〜10日程度
トリコモナス5日〜28日
クラミジア1〜3週間
マイコプラズマ/ウレアプラズマ1〜5週間
HIV数年(*2週間程度で初期の風邪症状が出現する方もいる)
A型肝炎2〜7週間
B型肝炎2週間〜6ヶ月
C型肝炎2週間〜6ヶ月
梅毒3〜6週間
尖圭コンジローマ3週間〜8ヶ月

このように見てみると、数日程度の短いものから、数年程度のとても長いものまで感染症によって潜伏期間にかなりの違いがあることがわかります。

そして、これが恐ろしい落とし穴を作り出す原因となっています。

潜伏期間という概念がもたらす落とし穴

潜伏期間という言葉を聞いたときに、一部の人は「症状が出るまでの猶予期間」だと捉えてしまいますが、これは大きな誤りです!!

潜伏期間は、症状こそ出ていないものの、体内に侵入した病原体が着実に増殖していき、あなたの身体をむしばむ準備を進めている期間なのです。

そのため、この段階で治療を開始できれば症状は軽く済むのですが、逆にこの期間を何もせず過ごしてしまうと、後々重大な症状に襲われることになるのです。

特に、エイズ(AIDS)などは、上記で見た通り、HIVに感染してから発症までの潜伏期間が数年〜数十年あります。

この期間に一度でも検査を行い、感染に気づくことができれば発症を抑制することができるのですが、直近で性行為等を行っていないからと検査を行わずに放置して早期治療が叶わなかった場合、早期治療時ほど完全な免疫系の回復が期待できず、感染症やがんのリスクが増加します。

またAIDSへの進行速度が速まり、治療効果が限定され、予後が不良になる可能性が高まります。

なんとなく、潜伏期間はたかだか数週間程度という認識を持っている方が意外と多く、直近数週間性行為等を行なっていないと、性病のリスクは全くないと勘違いしてしまうことがよくあります。

しかし、これはとても恐ろしい落とし穴です。

潜伏期間を決して侮ってはならず、定期的に検査をすることによって性感染症の発症を抑える、あるいは発症しても軽症に抑えられるようにしましょう。